カットの値段は、聞かれなくても口から出てきます。顔そりもそう。ところが新規のお客さんに「カットと顔そりと眉、全部でいくらですか」と聞かれた瞬間、天井を見上げて足し算がはじまる。翌週、同じ人に同じことを聞かれたら、たぶん違う数字が出ます。
だらしないわけではありません。カットだけで始めて、頼まれるたびに一品ずつ増やしてきた店は、たいていこうなります。ただ、きちんと組んだ料金表がないと、値段を決めているのはその日の気分、ということになってしまいます。
料金表は、あなたの仕事を見せる場所
椅子に座る人は、細かい注文を固めて来店するわけではありません。入ってきたときより良くなって出たい、それだけです。「いつもの感じで」が理容室でいちばん多い注文なのは、それ以外の頼み方を知らないから。一度試したもの以外、あなたに何ができるのかを知らないのです。
料金表は、その「知らない部分」を伝える場所になります。スチームタオルの顔そりがあること。ヘッドスパがあること。カットと顔そりを一緒に頼めば、単品の合計より安いこと。目に入る場所に書いていなければ、そのお客さんにとってそのメニューは存在しません。存在しないものは、誰も注文しません。
とくに顔そりは、理容師免許のある店だけが提供できる施術です。美容室にはない武器を、表のいちばん下に埋めてしまうのはもったいない話です。
客単価を下げてしまう3つの失敗
1. 項目が多すぎる
メニューが20も30も並んだ表は、「何でもできる店」ではなく「散らかった店」に見えます。選択肢が多くて比べる基準がないと、人は迷ったときに誰でもやることをやります——知っているなかで、いちばん簡単で安いものを選ぶ。カットだけ、で終わりです。
2か月に一度しか出ないメニューを、メインの表に載せる必要はありません。「応相談」で十分。売れる料金表は短くて、離れた場所からでも読めます。
2. どれも似たような値段
カット、顔そり、襟足、眉が全部同じ価格帯に並んでいると、どれが手のかかる仕事なのかを判断する唯一の手がかりを、お客さんから取り上げたことになります。値段も情報です。全部同じ値段なら全部同じに見えて、あとは習慣で選ばれます。
3. いちばん高い仕事が最下段
これは本当によくあります。店でいちばん実入りのいいメニュー——フルセット、ハイトーンカラー、トリートメント付きの顔そり——が「襟足そり」の下、最後の行に置かれている。そこまで読む人は多くありませんし、読んだ人は先に見た安い数字を物差しにしているので、最後の金額が法外に見えてしまいます。
並べる順番が注文を変える
最初に見た数字が、そのあとの全部を測る物差しになる——アンカリングと呼ばれる、単純な話です。「カット 4,000円」の直後に「カット+顔そり 7,000円」が来れば、セットは高く見える。先に高い項目を見ていれば、同じセットが妥当に見える。ここから実務的な結論が2つ出ます。
- いちばん手厚いメニューから始める。各ブロックの先頭にいちばんしっかりした施術を置き、それを基準にします。ほかはその簡易版として見えるようにする。逆ではありません。
- 売りたいものは、より高い項目の隣に置く。カット+顔そりは、上位コースの隣にあれば「賢い選び方」になります。表の最後にぽつんと転がっていれば、ただの出費です。
小細工の話ではありません。いちばんいい仕事を、ページのいちばん悪い場所に置いて自分の足を引っ張るのは、やめようというだけです。
実際の組み立て方
カテゴリーでまとめる
3〜5ブロックあれば、たいていの店は収まります。カット、シェービング、セットメニュー、ケア(ヘッドスパ、眉、トリートメント、白髪ぼかし)、必要ならカラー。ブロックが分かれていれば読むのが速いですし、「ここはカットだけの店」と思われずに済みます。
工程ではなく、仕上がりで名前をつける
「レザー使用の顔そり、スチームタオル付き」は、こちらがやることの説明です。「顔そりフルコース——スチームタオル・レザー・仕上げの保湿まで」は、お客さんが持ち帰るものの説明。細かい違いに見えて、技術項目と「頼みたくなる項目」の差はここで出ます。「全体ブリーチ」を注文する人はいません。みんな「明るくしたい」と言います。
反対にやりすぎるのも禁物です。「シグネチャー・ゴールドコース」のような、立派で中身の分からない名前は、何を買うのか分からないので飛ばされます。何が仕上がるのかが10〜15字で伝われば十分です。
所要時間はどこに出すか
時間は、それが説得材料になるときに効きます。40分の顔そりフルコースは値段の理由になりますし、30分のヘッドスパは「クリームを塗るだけ」ではないことの説明になります。逆に、混んだ日に守れない約束になると足を引っ張ります。目安は、長い施術と単価の高い施術には時間を出し、短いものには出さないことです。
金額を決める前に: 各メニューを3回、時間を計ってみてください。お客さんが入ってきてから、椅子まわりを片付け終わるまで。「早くて安いやつ」だと思っていた施術が、実は1時間近く椅子を占領していた——というのは、よくある話です。
メニュー見本:3つのポジショニング
下の表は、構成・行の順番・項目どうしの価格差を見るためのものです。金額はすべて例として置いた数字で、ポジショニングの違いが分かるようにしてあります。実際の数字は、立地、椅子1台にかかるコスト、実測の所要時間で決まります。真似するのは構成であって、金額ではありません。なお、表示はすべて税込のつもりで書いています——店頭もサイトも、総額(税込)表示が原則です。
| メニュー(この順番で) | 目安時間 | 地域密着 | 標準 | プレミアム |
|---|---|---|---|---|
| カット+顔そり(セット) | 60分 | 4,000円 | 7,000円 | 12,000円 |
| カット+シャンプー・ブロー | 45分 | 3,000円 | 5,000円 | 8,000円 |
| カット(シャンプーなし) | 30分 | 2,500円 | 4,000円 | 7,000円 |
| 顔そり(スチームタオル付き) | 40分 | 2,000円 | 3,500円 | 6,000円 |
| キッズカット(小学生以下) | 30分 | 1,500円 | 2,500円 | 4,000円 |
| ヘッドスパ | 30分 | 2,000円 | 3,000円 | 5,000円 |
| 襟足・刈り上げのメンテナンス | 15分 | 1,000円 | 1,500円 | 3,000円 |
| 眉カット | 10分 | 500円 | 1,000円 | 2,000円 |
| ブリーチ・ハイトーンカラー | 2時間〜 | 取り扱いなし | 12,000円 | 20,000円 |
数字のほかに、2つ見てほしいところがあります。行の順番は適当ではありません——セットが表の頭に来て、短くて安いメニューは下です。そして目安時間は、金額と掛け合わせて、椅子1台の時間あたりの実入りを見るために置いてあります。上の例なら、標準の顔そり(40分・3,500円)は時間あたり約5,300円、カット(30分・4,000円)は8,000円。同じ表のなかで1.5倍の差がある、というのが一目で分かります。
地域密着の列は回転が勝負なので、カラーがそもそも入っていません。2時間かかるカラーは、回さないといけない椅子を1台まるごと止めてしまいます。標準でレジを動かすのはセットメニューです。プレミアムが売っているのは時間そのもの——1人にかける分数、いい薬剤、時間どおりに始まること。ポジショニングを選ぶのは、やらないことを選ぶことでもあります。
押し売りにならないセットの作り方
セットは、値引きの言い換えではありません。同じ来店でまとめて受ける意味があるものを束ねて、その分の得を正直に見せるだけです。効く決まりが3つあります。
- 1セットにつき最大3品。5品入りのパックは福袋のようになりますし、合計金額でお客さんが引きます。
- 得は見せる、でも値引き合戦にしない。「カット+顔そり 7,000円(単品合計 7,500円)」で十分です。割引が大きすぎると、通常価格のほうが盛られていたと思われます。
- セットはブロックの先頭に。最後ではなく、最初に読まれる行に置きます。
そして、いちばん利益になるのは、たいていメニューの組み合わせではありません。次回予約です。椅子から立つときに次の日時が入っているお客さんは、会計で足した一品より価値があります。
料金表を置く場所
- 店内の壁。離れても読める大きさで。古い金額の上に、新しい値段を手書きで重ねないこと。
- GoogleビジネスプロフィールとInstagram。メニュー欄、固定投稿、ハイライトに。新規のお客さんは、DMを送る前にここを見ます。
- 予約ページ。いちばん売れるのは、この版です。
壁の料金表を読むのは、もう店に入った人。Instagramのそれを読むのは、気になっている人。予約ページのそれを読むのは、すでに予約ボタンに指をかけている人です。値段を読むことと、メニューを選ぶことが同じ動作で起きるのは、この場所しかありません。ここで項目の位置を入れ替えると注文は本当に変わりますし、結果は翌週の売上に出ます。
BarbaSyncなら、このメニューをカテゴリー・所要時間・金額つきで登録すると、そのままお店の予約ページになります。前日のリマインド、無断キャンセルを減らす事前決済、スタッフごとの歩合をメニュー単位で計算——ここまで含めて月額1,500円。7日間の無料お試しつき、クレジットカードの登録も要りません。
見直しの周期
性質の違う見直しが2つあり、周期も違います。
- 3か月ごとに、構成を。ほとんど出なかったメニューはどれか——表から外すか「応相談」に回す。よく出るのに安すぎる施術はどれか——位置を上げるか、隣を変える。
- 最低でも年に1回、金額を。薬剤・材料費、家賃、光熱費、実測の施術時間を見て決めます。3年据え置きは気前がいいのではなく、働くためにお金を払っている状態です。
上げるときは前もって知らせて、壁・Googleビジネスプロフィール・Instagram・予約ページを同じ日に直します。そして謝らないこと。きちんと告知された値上げは、いいお客さんほど受け入れてくれます。飲み込めないのは、会計のときに初めて新しい金額を知らされることのほうです。
まずは、いちばん簡単なところから。スマホのメモを開いて、毎週やっている施術と、実際にもらっている金額を書き出す。そこからカテゴリーにまとめ、仕上がりで名前をつけ直し、セットを先頭に置いて、開いたらそのまま予約できるページとして出す。ここまでやれば、料金表はもう紙ではなく、店の営業担当です。